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第16回 〈伝える〉ということ。(3) ―キオクのチカラ―

 今年から新元号となり、新しい時代の節目となっています。歴史に造詣は深くありませんが、元号が変わることを予告されている時代は今まで無かったのではないでしょうか※1。我々日本人が初めて体験する、まさに新しい時代の幕開けと言ってよいでしょう。
 そんな新しい時代を迎える2019年の初回コラム執筆の時がやってまいりましたが、今回もいつもと同じで余裕というものは全くないスケジュールであります。

 ここ数回、プライベートな内容を書いてきたわけですが、ふと気づくと著者の勤める会社にこのコラムの存在を知る人が増えているではありませんか…※2
 「このコラムを知っている人なんて、ここにはいないよね」と高を括っていたことに反省。この状況下において、これ以上プライベートを記し、身を削ることは得策ではありません。今回はノンプライベートで進めていくことを皆様に宣言いたします※3。

 皆様には「幼い頃に暮らしてた家のキオク」って残っているでしょうか?
 筆者は小さい頃の家にまつわるキオクが生々しく残っています。
 怒られて閉じ込められた押入れ―
 その中に隙間から差し込むわずかばかりの光―
 風邪で寝込んでいた時の天井の怪しくせまってくる木目―
 60Wの電球に照らされるムード満点で何かが出てきそうなトイレ(当時のイメージでは便所という表現が適切かもしれません)などなど…
 風呂釜に火をつけようとして起こした小爆発のキオクも鮮明です。前髪チリチリ、まつげまで溶けてしまった恐怖のキオクですが、その様をおもしろがって笑っていたなんとも器のでかい母親の姿も同時に思い出されます。
 こんなキオクもあります。
 ある日廊下のガラスを割って大きな破片が腕にぐっさりと刺さったことがありました。血がピューと吹き出します。著者はびっくりして、働きに出ていた母にTEL。返ってきたのは「ガラスが刺さったら血が出るのは当たり前」と、とてつもなく冷静な対応…

 このように家をきっかけとし、次々と色々なキオクが蘇ってきます。決して豪華絢爛な家ではなくても素敵なキオクを残してくれた「我が家」というのは、幼い頃の経験と密接に結びついています。
 そして、キオクというものは当時マイナスな感情であっても、時間とともに輝きを伴った美しいものに変化していきます(と気付けば、幼少の頃のプライベート話満載になっていました。こんなはずでは…)。
 「家」の良さに含まれるのは、子どもの頃に残るキオク。これもひとつの大事な要素なのではないでしょうか。

 現代の住まい選びは非常に多様化し、選択の幅が広がっています※4。注文住宅、建売住宅、そして賃貸という選択肢も当然でてきます。
 住宅会社に勤務する立場ではなく一個人の考えとしても「継続的に住める家」で家族と共に子どもが色々なドラマを体験することは成長過程における大事な要素ではないか、と思います。
 確かに賃貸住宅は、利便性を求めてライフスタイルの変化に合わせた住み替えも楽ですが、2年や4年住んだ部屋に数十年経っても思い起こせるドラマのキオクはあるのかなという疑問が生まれます。
 家の中をドタバタと兄弟で走り回っても、壁紙に落書きをしても※5、美しいキオクに変化するのはやっぱり「自分たちの一戸建て」だからなのかもしれません。

 小さい頃に起こるその家庭の様々なドラマ―そしてその舞台である「家」は大切な要素のひとつ。そんな家にまつわるキオクをいっぱい持っている自分は幸せだなーとしみじみ思うわけです。そして、そのキオクは少なからず今の人生に影響を及ぼしてるような気がしています。
 もしかすると家はキオクを発生させる一つの装置であり、そしてそれを保存できるカプセルであるのかもしれません※6。 色濃く刻まれたキオク、そしてそこにとどまるキオクが〈伝える力〉を増幅していくのかなと思っています。

 素敵な家をつくることで、お子さんが素敵なキオクをいっぱい詰め込んだ家とともに成長し、そのキオクを次の世代に伝えていく。家で繋がるキオクのストーリーを皆様もぜひ紡いでみて下さい。


※1 元号に関する豆知識をひとつ。1300年以上で247の元号が使われてきたそうですが、そのなかで20年以上続いた元号はたった「12」しかないそうです。最長の元号は「昭和」の64年間で「平成」は歴代で4番目の長さだとのことです。
※2 近頃著者は「この前のコラム見ましたよ」「へー、そんなことを考えてたんですね」と会社内で同僚にこっそり耳打ちをされるとか、されないとか…
※3 この宣言をたった数行で反故してしまうのが著者の魅力だ、というのが編集部の出した結論です。
※4 注文住宅というジャンルだけでも土地探しから工法構造の選択、依頼会社選び、デザインや間取りの決定、予算の調整に金融機関と保険の選別など多岐にわたります。それを加速させているのがインターネットの普及です。選択肢が無限に広がるがゆえに「どれも選べない」という状況が起こっています。ややこしい時代ですね。
※5 今は走るどころかボルタリングのできる家や落書きが思う存分できるよう壁に黒板を設置した家など、子どもが楽しめる住まいのアイデアが増えています。これこそが注文住宅の醍醐味だと思うのです。
※6 編集者は中学校に上がるまでに4回引越しをしていますが、家の記憶がほとんどありません。そもそも幼い頃の記憶があちこちに分断されていて、一貫した映像として思い出せないことがほとんどです。「家は記憶発生/保存装置」という著者の考えに当て嵌めると妙に納得です。


山﨑かずお

著者プロフィール

多摩美術大学建築科卒。都内設計事務所勤務を経て、フリーランスの商業建築設計及びグラフィックデザイナーとして活躍。現在は「サラリーマン道」を究めるため、某住宅メーカーに在籍中。

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