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第13回 〈伝える〉ということ。

今回からサブタイトルをいきなり「〈伝える〉ということ。」に変更させていただきました。内容的には前回の内容から続いているともいえますが、せっかくインパクトあるサブタイトル※1を編集長から授かったにもかかわらず、勝手に変えてしまいます。ごめんなさい。 
前回は筆者が勤務先で行っている新卒研修時のテーマが、〈伝える〉であることは書きましたが、この〈伝える〉は、私の人生のテーマそのものであるともいえます。普段の仕事でもしっかりと〈伝える〉ことはとても大事なことであるし、デザイン・広告の仕事ではいかにオーディエンスに〈伝える〉ことができるかが勝負になります。 

今から30年程前、筆者が美大生をやっていたころ、頻繁に飲み会を行っていました。田舎の大学だったので周辺に店は無く、大学のクラブハウス中庭で焚き火を囲みながら飲んだり、宅飲みをしたり。懐かしき思い出であります。先輩からは「酒の一滴、血の一滴」※2という名文句を字面だけではなく体に叩き込んでいただきました。 
そんな飲み会では、全くのバカ話と宴会芸に終始するということがほとんどでしたが、熱い議論を交わすことも珍しくありませんでした。美大の人間を大きくわけるとファイン系とデザイン系※3とにわかれます。まずそこで一大論争が勃発するわけです。わりと多かったのが「どっちが偉いか」的なテーマです。とても子供っぽいテーマではありますが一旦ゴングが鳴ってしまえば後は大変。そもそも自己主張の塊が集まっているわけで、若さも併せ、大人の落とし所なんてものはこれっぽっちもありません。先輩も後輩も男女も関係無く一大バトルのスタートです。やれ、デザインはクライアント有りきの制作で表現者として自分のやりたいことをやっていないとか…それに対しファインの世界だって昔はパトロンありきであって、純粋に自分の表現したいことをやっていた人間は少ないとか…そして散々バトルした後に涙しながら、なんだかんだ言ったけど、そっちが羨ましいんだよ…というオチも幾度となくあったのです。 

そんなバトルが続き、熱く楽しいお酒が進むわけですが、今でも記憶に残るのは「将来どんな制作者(表現者)になりたいか」というテーマが酒の肴となった時でした。 
その時筆者は「全ての人に受け入れてもらおうなんて思わない。たった1人でいいからわかってくれる人がいればいい。」というようなことを答えたわけです。その当時の答えは数十年間変わることはありませんでした。 
仕事の変化や色んな出会い。そこで気付くことがあり、この1年ちょっとで筆者は改めて〈伝える〉ということを再考しているわけなのですが、〈伝える〉を考えている時に気付いたのです。 

あ、オレってだからダメなんだ。と。 

前述したどんな制作者になりたいか、の答えに全てが現れていたのです。 
筆者は「たった一人でいいからわかってくれる人がいればいい。」と考えていたわけですが、そこには〈伝える〉という意識が欠如してるじゃないかと気付いてしまったのです。 
「わかってくれる人…」とはあまりに受動的な考えです。振り返れば、この発想に全てが集約されていた人生だったような気がします。 
わかってもらえる努力をしないで、わかってくれる人がいればいいというのはあまりにも都合がいい考え方です。※4

「大器晩成」という言葉が大好きな筆者でありますが、なかなか晩成しないなぁ思っていましたが、このような心構えでいたらいつまでたっても晩成するはずなんてありません。 
結果的に一人に伝えることもできず、ましてそれが大勢の人に繋がるはずもなく。だからデザインをやっていても、ぼちぼちの有様なんだと。 

かなり筆者の本質に近いところの愚かさに今更ながら気付いてしまったわけです。 
ここで落ち込んでいては、この先の人生が暗くなってしまうというもの。 
間違いに気付いたら修正すれば良いわけです!※5
わりと単純な発想の筆者でありますから、できることといえば、 

まず1人に伝えられる事。 

〈伝える〉ことの難しさ。勇気もいるし、タイミングも重要だろうし、簡単なようで簡単で無く、伝わっているようで伝わっていないこともたくさんあります。そんな難しい〈伝える〉ですが、 たった1人の大切な人にメッセージを送るつもりでこれからの仕事をやってみようと思う筆者です。その結果〈伝える〉ことができることができたらこれほど嬉しいことはありません。


※1 前回までは「常識をぶっこわせ」という副題でコラムをお願いしてきました。読者のみなさんの常識を壊したかどうかはさておき、建築雑誌のコラムとしての枠組みは破壊してしまったかもしれません。
※2 酒飲みの名言としてよく知られる言葉ですが、その出展を辿るとどうやら戦時中の日本が掲げたスローガンにあるようです。当時「国民総動員体制」だった日本では「石油の一滴、血の一滴」と節制を促し、大切なモノの喩えとして使われるようになりました。現代日本では、「生きていくための燃料にアルコールが大量に必要だ」と嘯くために使われることがほとんどです。
※3 ファイン系とはファインアート(fine art)を指す言葉で、油絵・彫刻・日本画などのいわゆる純粋芸術を総称した言葉。対してデザイン系とは実用的なものや商業的なものに繋がる美術の総称として使われる。同じ美術芸術の志を持つが、その目的意識が異なるため、日夜争いが絶えないのだとか…
※4 「わかってくれる=理解」ではなく、「伝える努力=能動的に理解してもらえる」こそがコミュニケーションの基本なのですね。好きな人に興味がなさそうなふりをしていながら「あの人には私の気持ちが伝わらない!」と嘆いていても仕方ありません。でも人間はその努力を怠りがちです。
※5 大器晩成とは老子の「大方無隅、大器晩成(大方は隅無し、大器は晩成す)」が由来。ざっくり言えば、大きな器は大きければ大きいほど完成するまでに時間がかかる、という意味になります。つまり大器晩成は「なる」ものではなく「する」ものなのだと考えれば、著者の気付きは既に「大器晩成」と言えるのではないでしょうか。


山﨑かずお

著者プロフィール

多摩美術大学建築科卒。都内設計事務所勤務を経て、フリーランスの商業建築設計及びグラフィックデザイナーとして活躍。現在は「サラリーマン道」を究めるため、某住宅メーカーに在籍中。

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