IECOCORO NAVI

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第1回 『灯り考1』

太古の昔、まだ人間がギャートルズ※1の時代だった頃、闇夜を照らす灯りといえば、まず日々大きさの変わる「月光」と何かの拍子に勇気ある者が手にした「火」、そして「蛍や夜光虫※2・ヒカリゴケ」などの発する不思議な灯火しかありませんでした。これらの光を「灯り」と定義して良いのかどうかはさておき、この3種類の「灯り」だけが原始の夜を照らしだす光だったと考えて間違いありません。先に言っておくと、光の話題に触れるとき必ず登場するルクス※3・ルーメン※4・ケルビン※5といった難しい単位は登場しませんので、読者の皆さんはご安心ください(笑)。

賢明で聡明、かつ想像力旺盛な読者の皆様。目を閉じて以下のシチュエーションを思い浮かべてみてください。

①満月の光が降り注ぐ南の島の浜辺。ほら、あなたの周りではウミガメが涙を流しながら卵を産んでいるかもしれません。隣には、やさしい月光に照らされる大好きな彼女(彼)の横顔が…。
②高校時代の文化祭最終日のキャンプファイヤー。燃え盛る炎の周りでフォークダンスを踊る※6あなた。柔らかい炎の灯りに映し出される大好きな彼女(彼)の横顔。
③里山を流れる夜の清流。そこには無数の蛍が乱舞しています。驚きと喜びに溢れた彼女(彼)の横顔。

すべて大好きな彼女(彼)の横顔シリーズになってしまいましたが、どうですか?ココロのときめきを感じてもらえましたか?賢明な読者の皆さんはもうお気づきかもしれませんが、人間の心に作用する「灯り」は、太古の昔から存在する灯りと密接に関係しています。きっと進化や文明の歴史の中で、DNAに何かが刷り込まれているとしか思えません。

そして、もうひとつ。「月光」や「炎」に照らされる人間の横顔は「美しい」ということです。「月光浴」で有名な写真家の石川賢治氏の作品には、神々しいまでの美しさが宿っています。映画の中では暖炉の灯りの前で数々のラブシーンが演じられ、人間の美しさがより鮮明に描かれてきました。

ということは、勝負は満月の夜か焚き火の前で…最高の演出の中に身を置いてこそ大好きな彼女(彼)のココロも傾くというものです。と、ここまで書いて、ふと気が付きました。この「IECOCORO」の読者の皆さんがほぼ既婚者であるということを…まぁ、大好きな彼女(彼)ではなく、愛する奥様・旦那様との情をさらに深めるための演出※7と考えてください。

自らのココロをときめかせ、自らをも美しく照らし出す素敵な灯りの数々。いまやLED照明で生活する私たちにとって忘れてしまいがちな存在ですが、ぜひ時間をつくって満月の夜を散歩、バーベキューの機会に焚き火を囲むなどの癒しのひとときを楽しんでみてください。見慣れた風景や見慣れた奥様・旦那様の顔がその夜は素敵に輝いて見えることでしょう。

そして最後に残された「蛍や夜光虫の光」。この灯りだけは現代流にアレンジされ立派に受け継がれています。たとえば、年末に向けて全国各地で行われる「イルミネーション」。心ときめくデートの大定番ですよね。その小さな灯りの集合体は、老若男女を問わず感動と喜びを与えてくれます。それはまさに、現代における発光系生物のメタファー※8。イルミネーションは現代文明が演出する非日常、つまり最高の「ハレ」の場といえるかもしれません。この場もまた、ココロ傾くシチュエーションでもあります。

今回は、住宅系雑誌のコラムでありながら「部屋のライティング」についてではなく、「灯りそのもの魅力」を再認識してほしいと思い、ここまで書き進めてきました。ポイントは、若干難しく言うと「光源と対象物(照らされるもの)の関係性と、そこに働く心理的作用」ということになります。実は、気になる「部屋のライティング」もこの法則に従っているのです。次回を乞うご期待ください。


※1 園山俊二による漫画作品。架空の原始時代の原始人たちの日常を描くギャグ漫画。『週刊漫画サンデー』『ビッグコミックオリジナル』などで連載。1996年NHKには「はじめ人間ゴン」のタイトルにてアニメも放映された。
※2 暖海の沿岸に見られる浮遊生活をする直径1~2mmの球形の海産単細胞生物で、波の動きなどの刺激により発光する性質がある。
※3 照度の単位で、単位記号はlx。面積1㎡の面に1lmの光束が均等に入射したときの照度のこと。
※4 光束の単位で、単位記号はlm。すべての方向に均等な光度1cdをもつ光源が単位立体角1sr内に放出する光束を1lmとする。
※5 温度の単位。厳密には熱力学温度(絶対温度ともいう)の単位。記号はK。国際単位系の基本単位の一つで、水の三重点の熱力学温度の1/273.16と定義される。
※6 最近では文化祭で「キャンプファイヤー」を行うことは安全上の理由から少なくなったようです。経験のない方は妄想でお楽しみください。
※7 使用後の責任は持ちませんので、あしからず。
※8 隠喩。「~のようだ」といった例えを使わない比喩のこと。


山﨑かずお

著者プロフィール
多摩美術大学建築科卒。都内設計事務所勤務を経て、フリーランスの商業建築設計及びグラフィックデザイナーとして活躍。現在は「サラリーマン道」を究めるため、某住宅メーカーに在籍中。

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